八ヶ岳山麓の自然の中で

(山荘の窓辺で綴る随筆です)


乗っ取り

餌台に時々蜂が近づくことがあります。あの獰猛なスズメバチではなくやゝ小さな足長蜂です。餌台にヤマガラやシジュウカラがいる時、 足長蜂が近づくとカラ類は驚いたようにサッと、餌台から飛び去ります。ヤマガラもシジュウカラも自分よりはるかに小さな足長蜂をかなり警戒しているようです。 足長蜂より大きな蛾や蛾の幼虫は好んで食べるカラ類も足長蜂は苦手のようです。人間も蜂が来ると逃げるのが普通ですから、 小鳥が逃げるのも無理からぬことかもしれません。

頻繁に足長蜂を見かけるので近くに巣があるのでは・・ と思い、周辺を観察していたところ、すぐ近くのカラ類用の巣箱に蜂が入っていくではありませんか! さらによく観察したところ、何匹も蜂が繰り返し出入りしていることが分かりました。どうやら巣箱に蜂が巣を作ったようです。 「しまった!蜂に巣箱を乗っ取られたか!」と臍を咬みながらも当分の間静観することにしました。

1ヶ月くらい過ぎた頃、巣箱の入り口に何か灰色の塊が見えるようになりました。どうやら蜂の巣が大きくなり巣箱の入り口に達するほどになったようです。 蜂の出入りも頻繁になってきました。これはまずい! ヤマガラのためにも、人類のためにも退治しなければ・・・ と、またもや正義感(?)が燃え始めました。

敵を倒すにはまず敵をよく知らねばなりません。足長蜂の行動を見ていると暗くなると活動が鈍くなることが分かりました。 よし! 巣を襲撃するのは日が暮れてからにしよう。ハシゴを木に掛けて、日暮れをじっと待ちました。

足長蜂の動きが鈍くなっても油断は出来ません。だぶだぶのズボンとジャンパーを着て長靴を履きましたが、さて顔や頭をどう保護しようか・・・・・  いいアイデアが浮かびました。頭部全体を覆う固いヤツ、 そうです! あれです、バイク用のヘルメット!! これで万全です。

日暮れ時、だぶだぶの服装に、首にタオルを巻いて、ヘルメットをかぶった人物がハシゴをそろりそろりと登っていきます。どう見ても怪しげな人間に見えます。 警察に通報されかねません。でもご安心ください。ここは八ヶ岳山麓の森の中、人がめったに通りません。傍目を気にする必要がないところなのです。

さて巣箱に到達すると隠し持った殺虫剤(アースジェット)を巣箱の入り口から数十秒噴射、噴射の勢いが強いため中から蜂が飛び出すことが出来ません。 あえなく全滅です。巣箱をはずして下へ下ろして屋根を取り外したところ巣箱の半分以上が蜂の巣で満たされていました。

翌日・・・
巣箱のあった辺りを足長蜂が2匹飛び回っていました。しばらく飛び回った後巣箱のあった場所に正確に止まり、周辺を歩き回ります。 そして又飛び立ちしばらく飛び回った後、同じように巣箱のあった幹に止まるのです。どうやら昨晩外泊して難を逃れた足長蜂が戻ってきて、 巣を探しているようです。 飛立っては止まり、又飛立っては止まり、一日中繰り返していました。
次の日も・・・ 又次の日も・・・

 
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