八ヶ岳山麓の自然の中で

(山荘の窓辺で綴る随筆です)


電撃気絶器

暖かい季節になると、日暮れとともにガラス窓からゴツンゴツンという音が聞こえるようになります。 大きな蛾が 家の明かりに引き寄せられガラス窓にぶつかる音です。音がするほどの勢いでぶつかれば、蛾もかなりのダメージを受けているはずです。 翌朝ベランダに出てみると数匹の大きな蛾がひっくり返っていました。窓にぶつかる音は もっとたくさん聞いていますから、 多分かなりの蛾は激突のダメージから回復して飛び去ったようです。 朝になっても回復しない蛾は死んだのだろうと思っていたら、 なんとこれがほとんど生きているのです。

日の出とともに気温が上がり明るさが増すと、ほとんどの蛾はよたよたしながら動き始めるのです。中には永遠に動かない蛾もいますが、 大半の蛾はふらふらしながら飛び去っていくのです。なかなか生命力が強いなぁ!と感心しながら観察していましたが、 いくら観察しても蛾を好きにはなれません。夜のゴツンゴツンも気になります。やはり人類のために退治しなければいけない、 という いつもの結論に至り、近くのホームセンターへ行ってみました。

ホームセンターの店頭に電撃殺虫器なるものが並んでいます。殺虫剤を使わずに虫を殺すので環境への影響が少ないようです。早速買ってきて使ってみました。 このキカイは中心部に青白い光を出す蛍光灯が取り付けてあり、その周囲をらせん状に細い電線が巻かれています。 この電線は隣り合う線に1000ボルトを超える電圧が印加されています。電線に手が直接触れないようにガードが取り付けられていますが 虫は内部へ入れるようになっています。夜、蛍光灯を点灯して屋外においておくと光に誘われて蛾が近づいてきます。 そして高圧電線に触れると感電死するという仕掛けに なっています。

ベランダに一晩置いてみました。蛾がかなり群がっていました。翌朝新兵器の底をはずしてみたところ30匹位の大小さまざまな蛾が重なっていました。  「オオッ! これは大猟だ!」と思い、蛾の死骸をベランダの上に新聞紙を敷いて明けてみたら、なんと動いている蛾がいるのです。 1000ボルトの電圧にも負けず生き延びた蛾がいたのです。

さすが自然界はすごい!1000ボルトを食らっても生きているのだ、と感嘆しながら、しばらく見つめていました。  するとこの生き伸びた蛾が羽ばたき始めて、やがてふらふらしながらも飛び去ったのです。 さらに動いてないように見えた蛾も少しずつ動き始め、 大きめの蛾は1時間ほどで大半が飛んでいったのです。

どうやらこのキカイは小さな蛾には殺虫力があるけれども大きな蛾には神通力が通用しないようです。  電撃殺虫器ではなく、正しくは電撃気絶器だったということが証明されました。

 
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