八ヶ岳山麓の自然の中で

(山荘の窓辺で綴る随筆です)


お見合い

庭に落ちた枯れ枝の整理をしていた時、近くでかすかな物音がしました。横を向くと、10メートルほど先に鹿がいるではありませんか。 こちらが驚いているのに鹿は驚いた様子もなく、怖がってる風でもなく、ただ静かに立ったままこちらを見つめています。 傍には今年生まれた小鹿が寄り添い、母鹿と同じように こちらを見つめています。

撮影の絶好のチャンス! カメラッ、カメラッ と思いましたが残念ながらデジカメは家の中。気持ちだけがあせります。 何とか撮影したい何とか・・・・ でも家に戻ろうとして少しでも動けば鹿は逃げてしまうでしょう。 動くに動けず、こちらも鹿と同じようにジーと立ったまま鹿を見つめていました。

視線を周囲に向けても他に鹿は見当たりません。この母子だけで我が家の庭先を通り過ぎようとしたようです。 通常鹿は数頭乃至十数頭の群れで行動することが多いのですが、無謀にも親子2頭だけで 危険な人家の傍を通ろうとしています。 人家があっても人影をめったに見かけないため、鹿は危険な場所とは思ってないのかもしれません。 静かに突っ立っているだけの人間を見て、風で揺れているカカシのように見えたのか、怖がる様子が見えません。ゆったりとした母鹿の表情、 そして 母親の傍に居るという安心感からか、かすかに首を傾げた小鹿の表情も穏やかそのものでした。

そうしてお互い見つめ合ったまま、時が過ぎていきました。数十秒か、数分かが過ぎたとき、母鹿は静かに向きを変え歩き始めました。 小鹿もその跡に続きます。駆け足ではなく 普通の歩く速さで、何事もなかったかのように2頭の鹿の母子は去っていきました。 一度も振り返ることも無く ・・・・・・

 
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