八ヶ岳山麓の自然の中で

(山荘の窓辺で綴る随筆です)


謎の死

窓から外を見ていると突然空からベランダに何かが落ちてきました。すわ泥棒かっ!と思いましたが、泥棒が空から降ってくるわけがありません。 泥棒よりかなり小さな物体です。落下物を観察してみると野鳥のシメでした。 ベランダに横たわったままピクリとも動きません。 しばらくすると空からふわふわした雪のようなものがゆっくり落ちてきました。よく見ると鳥の羽毛のようです。 1分間くらいの間、 ふわっ,ふわっ,と次々と降ってきました。

窓を開けベランダへ出てシメを詳しく観察してみました。首の部分の羽毛がかなり無くなってピンク色の皮膚が見えます。 くちばしにかすかに血がにじんでいる他は目立った外傷が見当たりません。ベランダのシメの周囲には 先ほど降ってきた羽毛が 白い斑点のように散っています。

シメが何故空から降ってきたのか?この疑問を解くためにいろいろ考えてみました。まずこのシメが我が家の窓ガラスに激突した可能性が考えられます。 野鳥が家の窓ガラスにぶつかるのは、風景が窓ガラスに反射して、あたかも森が続いているように見えるからです。

しかし シメの真上にはガラス窓がありません。真上から横方向に2メートル位離れた所に2階の窓があります。 そこにぶつかったとすると斜めに約60度の角度で落下したことになります。通常ぶつかるとほぼ真下に落ちることが多いと考えられ、 また羽毛が60度の角度で落ちてくることも考えにくく、どうも2階の窓ガラスの衝突説は立証が困難になってきました。

羽毛が1分間もかかって落ちてきたことから、もっと高い場所から落ちてきたのかもしれません。窓より高いところには家の軒があり、 その上には木の枝が広がっていますが、野鳥が木の枝や屋根付近にぶつかるとは考えにくく、猛禽類に襲われる可能性のほうが高いように思われます。 しかしシメには猛禽に襲われたような傷は見当たらなく、この難事件の捜査は行き詰まってしまいました。

ともあれ かわいそうなシメの死体そのままにしておくわけにもいかず、葬ってやろうと思い、庭の片隅にシャベルで穴を掘ろうとしましたが掘れません。 うっかりここが真冬の八ヶ岳山麓であることを忘れていました。真冬の土は固く凍っていてシャベルごときでは穴が掘れるはずがありません。 やむを得ず凍土の上に置き、落ち葉を沢山かけておきました。
暖かい春がきたら、穴を掘って埋めてやろうと思いながら・・・・

 
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