八ヶ岳山麓の自然の中で

(山荘の窓辺で綴る随筆です)


行方不明

ベランダに取り付けた巣箱に今年ヤマガラが巣作りを始めました。 いろいろな巣材を口一杯に くわえて何度も運び込んでいました。 やがて卵を産み、雛がかえり、親鳥は毎日忙しく餌を運んでいました。

ところが昨日親鳥が普段と違った声で鳴いていました。キィーキィーというこれまで聞いたことのない鳴き声です。 窓越しに見ると巣箱の前でホバーリングしたり、巣箱を覗き込んだり、ベランダの手すりに止まったりして甲高く鳴いています。はて? 雛の巣立ちを促しているのかな?と思いましたが、鳴き方が違っています。 しかも巣立ちのときは入り口に雛が顔を出していますが、今回は顔が見えません。

どうもおかしい、何か変だ、親鳥が近くにいましたが、思い切って巣箱の屋根を開けてみました。 (巣箱は毎年掃除するために屋根が開閉できるように作ってあります)開けてビックリです。巣箱の中はカラッポ、雛がいないのです。 親が騒いでいる理由が分かりました。僅かの間に子供が行方不明になったのです。これは大変です。

ヤマガラが騒ぎ出す1時間ほど前は通常通り餌を運んでいましたから、この1時間ほどの間に 行方不明になったものと思われます。 いったい何が起こったのか? 深く考察してみた結果、雛がいなくなった理由として次の5つの可能性をピックアップしました。

   1.私の頭がボケて、雛がいないのに、いると思い込んでいた。
   2.密猟者によって捕獲された。
   3.ワシ、タカ、フクロウなどの猛禽類に襲われた。
   4.雛が自分から巣箱を飛び出した。
   5.蛇に襲われた。

1.については周囲の人達に聞いても、まだそこまではボケていない、という太鼓判が押され、この可能性は消えました。
またヤマガラは密猟に値するほどの珍鳥ではなく、密猟者が危険を犯して人家へ忍び込むとは思えません。 したがって、2 の可能性は限りなくゼロに近いという結論になりました。
さらに猛禽類については頭がかなり大きく、 巣箱の直径3cmの入り口からは頭を入れることが出来ないので、3 の可能性も消えていきました。
4.については前日巣箱を覗いたところ 雛はかなり大きくなっていましたが、4羽が折り重なるように巣の中でうずくまっていて、立ち上がったりしてないことから、 まだ飛べるレベルではないようでした。この雛が巣箱から自力で飛び出すことは困難というより不可能と言えそうです。

そうなると可能性は残った5番の蛇ということになります。昨年も一昨年も庭木に取り付けた巣箱を青大将に襲われています。  今回はベランダに取り付けたので庭木よりは安全かと思いましたが、見込み違いでした。巣箱の下の地上を探してみたら雛のものと思われる羽が 付け根の骨が付いた状態で見つかりました。 どうやら雛を飲み込むとき口からはみ出した羽が折れて落ちたものと思われます。

おのれ!憎っくきやつ、目に物見せてくれよう! といつもの正義感がメラメラッと燃え上がりましたが、相手がどこにいるか分からず、 目に物を見せられません。 周囲を見回してもカサッとも音がしません。とっくに逃げてしまったようです。

残念! 取り逃がしたか! 地団太踏んでも、後の祭り。 たかが蛇、たかが爬虫類と油断したのがいけなかった。 彼らもそれなりに知恵が発達していて、人家のベランダに忍び込む術を持っていたのです。来年の子育ての時期にはヤマガラのためにも 青大将に目に物見せようと決意を新たにしました。

 
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