八ヶ岳山麓の自然の中で

(山荘の窓辺で綴る随筆です)


幼い兄妹

先日近くのスキー場へ行ったときのことです。
スキーリフトに乗るため数人が並んでいました。その中に小さな子供が2人いました。 一人はまだ4歳くらいのほんとに小さな女の子。もう一人は女の子のお兄さんらしい幼稚園の上組か小学校1年のように見える6歳前後の男の子。 でもスタイルはかなりのものです。 2人ともヘルメットを着用し、ウェアも上下を揃えて同じ
服装。完璧にキマッています。 しかし近くには親らしい人は見当たりません。親は放任主義なのかもしれません。

子供2人はリフト乗車位置までスキーを滑らせ、リフトの椅子が近づいてきました。リフトは4人乗りですが他に誰も大人はついていません。  リフトの椅子は小さな女の子が背伸びしても座れる高さではありせん。すると6歳くらいの小さなお兄さんは妹をサッと抱き上げ椅子に座らせて、 同時に自分は精一杯背伸びして飛び上がるようにリフトの椅子になんとか座りました。

オーッ!無事座った。 感心して見ていました。リフトはスピードを上げ、ぐんぐん上がっていきます。 子供たちは乗るときうまく座るのに精一杯だったのでそれぞれ離れて座っています。するとお兄さんは妹の方に手を伸ばし、 グーッと抱き寄せるように自分の方に引き寄せたのです。そして妹がリフトから落ちないようずーっと妹の肩を抱き、 ときどき妹の方に顔を向けて何か話しかけていました。小さいのになかなか立派なお兄さんです。

リフトの降りる場所が近づいてきました。うまく降りれるか、心配して見ていましたが、降りるときはポンと飛び降りるように雪面にスキーを付け、 すーと滑っていきます。かなりスキーに慣れているようです。

リフトを降りてスタート地点まで少し平坦なところを歩きます。1ヶ所少し登りになっているところがありました。そこで妹はこけたのです。 一生懸命立ち上がろうとするのですが、スキーが滑ってうまく立ち上がれません。 お兄さんはそれを見ても手を貸すことはせず、 少し回りこんで 傾斜の下側に来て、自分のスキーを妹のスキーの横に当てて、ぐっと足に力を入れ、妹のスキーのすべりを止めました。 こんなに小さい子がこういう方法を知っていることに驚きを禁じ得ません。妹はスキーが固定されたので難なく立ち上がり、 スタート地点に向かってストックを突いて一心に滑っていきます。

スタート地点に来ました。 ここは中上級コースで傾斜角は23度くらいあり、初心者は少々足がすくみます。ここで一呼吸入れるかと思ったら さにあらず、全く止まらずそのまま、まっすぐ滑っていきます。妹はプルークボーゲンの直滑降です。かなりのスピードが出ています。 しかし危なげがありません。きれいなフォームで真一文字に滑っていきました。

お兄さんは妹の斜め後ろにピタッとつけて、きれいなシュテムターンを見せながら 妹との距離を一定に保って追っていきます。 見る見る視界から遠ざかり見えなくなってしまいました。

なるほど!あれだけのすべりが出来るのなら親がそばにいないのもうなずけます。あれだけの技量があればこけるはずがありません。 スタート地点でこけたのはたまたまだったのでしょう。しかし感心したのはスキーのレベルだけではありません。
お兄さんとしての責任を完璧に果たしていた点です。このお兄さん、大きくなってきっと思いやりのある素敵なリーダーになることでしょう。

 
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