八ヶ岳山麓の自然の中で

(山荘の窓辺で綴る随筆です)


青大将敗退

今年も野鳥たちの子育ての季節になりました。庭木に取付けてある巣箱は冬の間に内部をきれいに清掃して、 いつでも入居出来るように 準備してあります。 勿論ベランダに取付けてある巣箱も特に念入りに清掃して快適な子育てが出来るようになっています。 今年野鳥たちは巣作りに利用してくれるでしょうか。

春が近づきヤマガラやシジュウカラは庭木に取付けた巣箱を時々のぞきに来ます。中へ入ったり出たりしてしばらくすると飛び去っていきます。 何か気に入らないことがあるようです。今まで何度も青大将に襲われている事が思い出されるのでしょうか? 今年は大丈夫だよ、 今年こそ大丈夫だよ!と伝えているつもりですが、用心深い彼らはなかなか安心してくれないようです。

ベランダに取付けてある巣箱は例年ヤマガラの指定席になっています。今年はこの巣箱を利用してくれるか大きな関心を持って見守っていました。 程なく1羽のヤマガラが巣箱の様子を見に来ました。他のカラ類と同じように 出たり入ったりを繰り返して、その後飛び去りました。 しばらくすると今度は2羽で巣箱を見に来ました。夫婦で新居の確認に来たようです。こうなればもう決定です。 つがいが交互に巣箱へ出たり入ったりしたときは間違いなくその巣箱で子育てが始まります。

程なくつがいのヤマガラは枯れ草のような物を口いっぱいにくわえて巣箱に運び込み始めました。巣材は2日程で運び終えたようです。 この時期は巣箱に近寄らないように気をつけています。彼らは少しでも危険があると簡単に巣箱を放棄してしまうのです。 原発と同じでとにかく安全と安心が最優先されます。静かに静かに見守ることが大切なのです。

安全と安心のためには青大将対策は重要な課題です。以前ベランダの柱を上ってきた青大将に 雛を全て食べられたことがあります。 しかも私の対策の裏をかいて2年連続です。立木の巣箱も含めれば5回も巣箱を襲われているのです。とても許せません。 これまで負け戦が続きましたが、今回こそ勝負を掛けた戦いになります。

今回はベランダを支えている長い柱には 縦80cmのポリエチレン製のゴミ袋を巻き付けて上下の端を粘着テープで固定してあります。 勿論隣の柱もその又隣の柱も全てポリ袋を巻き付けてあります。 ポリエチレンは表面がなめらかで蛇はこの上を伝う事が出来ないのです。

これで安心と思いましたが、青大将を甘く見てはいけません。青大将は意外と賢いのです。 原発と同じように想定外の事も想定しなければなりません。 さらに検討して 木の枝にも注目しました。屋根に伸びている木の枝を伝って屋根に移動して上から進入する可能性に気がつきました。 この屋根からの進入を防ぐため屋根付近に伸びている庭木の枝も全て切り落としました。こうして青大将との戦いは静かに始まったのです。 最後の勝利を信じてヤマガラの子育てを見守ることにしました。

さてしばらくすると巣箱へのヤマガラの出入りが見られなくなりました。抱卵の時期に入ったようです。抱卵の期間は3週間くらいです。 3週間程経った頃ヤマガラが餌をくわえて巣箱に入っていきました。どうやら卵が孵ったようです。雛に餌を運び始めたのです。

そっと巣箱の屋根を開けて中をのぞいてみました。雛が4羽と未孵化の卵が2個ありました。ヤマガラは抱卵の時期は危険があると巣箱放棄をしますが、 卵が孵化すると簡単には巣箱放棄をしません。あまり頻繁に巣箱を覗くのはよくありませんが、たまにそっと遠慮深く、 かつ慎み深く覗いてもこの時期は大丈夫です。

雛は日に日に大きくなっていきます。10日ほどで羽が生え始め次第に鳥らしくなってきます。この頃になると雛の食べる量も増えてきます。 親鳥は頻繁に餌を運んできます。この頻繁に餌を運ぶ様子を見て青大将は巣があることを知り、雛を襲うのです。でも今年はこの時期を無事乗り切りました。 青大将はポリエチレンに攻撃を阻まれて雛を襲うことが出来ず、地団駄踏んで悔しがっているはずです。青大将が悔しがっている間にも雛はさらに成長し、 すっかり親と同じような大きさ、形になってきました。くちばしの根元だけ黄色い以外は すっかり親鳥と同じ姿になった4羽の雛たちは ある日次々と巣立ちをしていきました。

近くの草むらで無念そうに見上げている青大将の姿が目に浮かびます。
「どうだ! 参ったかっ!!」と一言 言ってやりたくてたまりません。

 
戻る